大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(う)1011号 判決

被告人 長橋七郎 外一名

〔抄 録〕

記録並びに当審及び原審取調べの各証拠を検討すると、関係各証拠、なかんずく、原審第二回及び第四回公判調書中の証人鈴木義朗の供述記載、同証人の当公判廷における供述によれば、被告人らにおいて原判示どおりの言動をなし、その結果右鈴木義朗が原判示どおり畏怖困惑した事実が明白であり、この事実に鑑みれば、単に所論のごとく被告人らが鈴木義朗に対し、本件手形不渡届についての異議申立の措置に対し疑義の釈明を行なったにすぎないものとはとうてい言いえず、所論自体は理由がないものといわざるをえないが、これに関連して職権をもって調査するに、被告人らが右所為に及ぶにつきなした共謀の内容を検討するに、原判決の挙示する被告人ら及び原審相被告人谷米好美の捜査官に対する各供述調書謄本、なかんずく、谷米好美の検察官に対する昭和四九年九月一八日付供述調書謄本によれば、本件当日の昭和四九年四月一九日、被告人ら及び谷米は、当初、五洋通商に交渉に赴く予定で静岡県富士市を出発したが、その途中の自動車内で、かって被告人らが、長野信用金庫豊野支店において、同支店のなした手形不渡届に対する異議申立の措置に対し、落度があったとして長時間にわたり係員を追及したところ、結局、手形振出人が呼び出され、手形金の支払がなされたことがあったのと同様の方法を今回もとろうという趣旨の共謀をなし、その結果行先を変更して本件東京信用金庫江戸川橋支店に赴くに至ったというものであることが認められる。

そして、右のごとく被恐喝者と財産上の被害者とが異なる場合に恐喝罪が成立するには、(イ)被恐喝者に恐喝の目的となった財物その他の財産上の利益につき処分することのできる権限又は地位があるか(大判大正六年四月一二日、刑録二三輯三三九頁)、(ロ)両者の間に法益主体が単一と認められるべき関係があるか(大判大正元年一一月二八日、刑録一八輯一四四五頁)、(ハ)被恐喝者に対する恐喝が、第三者を介して財産上の被害者を恐喝したのと同視できる事情があるか(大判昭和六年一一月一六日、法律新聞三三四三号七頁参照)のいずれかの場合に該当するを要すると解すべきところ、関係各証拠を検討しても、右長野信用金庫豊野支店の事例の場合、同信用金庫と、手形振出人たる有限会社丸一藤沢商店代表取締役藤沢良秀との間に、右(イ)又は(ロ)の関係があったと認めるべき事情はないうえ、なかんずく、当審証人小池則夫、同藤沢良秀の当公判廷における供述によれば、右事例の際、被告人らにおいて、右支店の支店長に対し前記異議申立の措置に落度があるとして因縁をつけ、右支店長をして畏怖困惑させたことはあるものの、同支店長を介して藤沢良秀に害悪の告知及び手形金の支払を要求したものではなく、同支店長に対しては、単に藤沢良秀を同支店に呼び寄せることを要求したものにすぎず、藤沢良秀に対する手形金支払の要求は、同支店からの連絡により同人が同支店にかけつけた後直接同人に対しなされたもので、藤沢良秀は同支店に迷惑が及ばないようにするため右手形金の支払をなしたにすぎないものであって、右(ハ)の場合にも該らないものであったことが明らかである。

してみれば、右事例は、長野信用金庫豊野支店長をして、畏怖困惑させ、その結果藤沢良秀を同支店に呼び寄せさせる方途を講じさせるなどの義務なきことを行なわしめた点において強要罪の成立を論ずる余地のあるのは格別、恐喝罪の成立する事案ではなかったのであるから、被告人らが本件につき右と同様の方法をとろうと共謀したことをもって、直ちに恐喝を共謀したものということはできない。

なお、本件の場合、関係各証拠を検討しても、東京信用金庫ないし同信用金庫江戸川橋支店長鈴木義朗と、株式会社五洋通商ないし同社代表取締役大蔵義一(原判決に大蔵義一とあるのは誤記と認める)との間に前記(イ)又は(ロ)の関係があったと認めるべき証左はなく、また、関係各証拠、なかんずく、前記証人鈴木義朗の供述及び供述記載によれば、本件においては、たまたま大蔵義一が不在だったため鈴木義朗との問答が長引き、その間話の表現や語気に若干エスカレートした点もあるものの、被告人ら言動の大筋は、右鈴木義朗を畏怖困惑させ、同人をして、当初は大蔵義一を東京信用金庫江戸川橋支店に呼び寄せるようにさせようとし、やがて、大蔵義一が不在でこの目的を達せられないことが分るや、大蔵義一に対し手形金を支払うよう鈴木にしようようさせようとすることにあり、鈴木義朗を介して大蔵義一に対する脅迫及び手形金の支払要求を伝達したものではなかったことが明白であり、また、原審第六回公判調書中証人大蔵義一の供述記載によれば、同人は、手形金を支払わなければ鈴木義朗同様被告人らから身体自由に危害を受けるものと畏怖した事実はあったものの、これは鈴木義朗を介してその旨告げられたためではなく、みずからそのように判断したにすぎないというのであり、また、それにもまして、このまま放置すれば、同信用金庫から金融取引等に不利な取扱いを受けるのではないかとの独自の判断が主たる理由となって、被告人らとの話合いに応じ、結局本件手形金の支払をなした事実が明白であり、結局、その事実関係自体、前記(ハ)の場合にも該らない事案であったというべきである。

してみれば、原判決が、被告人らに、東京信用金庫江戸川橋支店長鈴木義朗に因縁をつけて脅迫し、同人をして本件手形振出人たる株式会社五洋通商代表取締役大蔵義一に働きかけさせて手形金を支払わせ財産上不法の利益を得ようと企てた旨認定判示し、もって恐喝罪の成立を認めている点は、恐喝罪の成否に関する法律の解釈を誤った結果事実を誤認したものというべく、右の事実の誤認は判決に影響を及ぼすべきことが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免れない。

(木梨 時国 奥村)

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